産業医とはどのような存在か

近年、多くの企業等にあっては「従業員満足度」というコンセプトが重要視されるようになっています。
これは取引先や一般消費者の満足度に対する指標である「顧客満足度」に倣って生み出された概念で、快適性・安全性・効率性など職場に関するさまざまな項目に対して従業員の満足度が高いほど仕事の能率が向上し、さらにはそれが業績の向上にもつながるこというものです。
こうした流れを受け、改めて注目を集めるようになったのが産業医です。
安全面や衛生面から見て職場環境を常に良好な状態に保ち、そこで働く人たちの健康を守るエキスパートとして、その存在は重要度を増しています。

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産業医とは

産業医とは、オフィスや工場、その他各種施設内において労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事に従事できるよう、医学の専門家という立場から指導・助言を行う医師のことをいいます。
労働安全衛生法という法律に根拠規定があり、それによれば常時50人以上の労働者を使用する事業場では必ず選任されていなければならないとされています。
また、基本的には嘱託でも良いのですが、常時500名以上の労働者を使用する事業場であって、高温や低温・騒音・放射線などにより労働者に健康上の問題が起こりやすい特定の職場にあっては、専属でなければならないという規定があります。

産業医の具体的な仕事内容

それでは、産業医は具体的にどのような仕事を担当するのかというと、その内容は省令に列挙されています。
それをまとめると、健康診断を実施したり面接指導を行ったりしてその結果に基づいて労働者の健康を保持するために各種措置を講じること、心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)やそれに関わる面接指導を実施したり、その結果に基づいてく労働者の精神的な健康を保持するために各種措置を講じること、作業環境や作業そのものの維持管理に関すること、労働者の健康管理に関すること、健康教育、健康相談、その他労働者の健康の保持増進に役立つと思われるための施策を提言したり自ら実施したりすること、衛生教育に関すること、労働者の健康障害が発生した場合にその原因を調査したり再発防止策を考えたりすること、などとなります。

実際にどのように遂行するか

これらの職務を実際にどのように遂行するかについてはそれぞれの事業場ごとに異なりますが、基本となるのは3つです。

■職場の巡視

まず最初は、職場の巡視です。
オフィスや工場などの内部を実際に見て回り、その環境や仕事の進め方などにおいて労働者の健康に悪い影響を及ぼす要素がないかどうかをチェックするとともに、必要に応じて改善や廃止などを指導します。
チェックすべき項目は多岐にわたります。
たとえば仕事を実際に行っているスペースでは照明・換気・温度管理などは適切に行われているか、機械や道具類の扱いは安全か、作業空間が狭すぎたりしていないかといった点がポイントとなります。
また、トイレや廊下、給湯室、非常口など執務スペース以外も巡視の対象です。
衛生管理はきちんとできているか、通路や扉の前などに物が置かれていて事故などが発生しやすい状況になっていないか、などをチェックします。
省令によれば、少なくとも1月に1回は巡視を行わなければならないとされています。

■従業員の健康管理

2つめの仕事は、従業員の健康管理です。
定例的な仕事としては、各職場で実施された健康診断の結果をチェックし、使用者に対して意見を述べるというものがあります。
健康を害するおそれのある、あるいは現に害している労働者がいると認められた場合は、休暇や休職をとらせたり、労働時間を短縮させたり、配置転換をさせたりなどの措置を講じるよう進言します。
また、随時に従業員の健康相談に応じることもあります。
長時間労働によって疲労が蓄積している者、長期の病気休職から復帰したばかりの者、健康診断で所見のあった者などに対して面談を行い、心身の状況について問い合わせたり生活上のアドバイスを行ったりします。
メンタルヘルス対策もこの中に含まれます。

■安全衛生委員会への出席

最後は、安全衛生委員会への出席です。
常時50人以上の労働者を使用する事業場では衛生委員会の開催が、さらに一定の要件を満たした事業場では安全委員会の開催が法律によって義務付けられていますが、これらの委員会に産業医の参加は義務付けられていないものの、出席するのが望ましいとされています。
そこで職場の衛生面や安全面における問題を討議し、意見を述べるなどして改善計画に関与します。

まとめ

これらの職務を遂行するために、産業医には高度な専門知識が求められます。
そのため、まず医師免許を有していることに加え、さらなる資格要件が定められています。
国が指定した専門研修を受講していること、労働衛生コンサルタント試験に合格していること、大学において労働衛生を担当する教職の経験があることなどが、その具体的な要件となります。
これらの要件を満たして産業医の資格を有している者は、平成29年の時点で全国に約9万人います。